「にしても、すっごい天気……久しぶりよね、こんなの」
角を曲がり、祥基の姿が見えなくなったところで、翠蓮はボソリとつぶやく。
すごい勢いで、傘に叩きつけられる雨粒。
「でも、雨は怪我人が増えるんだよなぁ……」
実際、今日、祥基の家を訪ねたのも、彼の母親が雨のせいで怪我をしてしまったからだ。
「まぁ、おばさんの怪我も大したことは無かったしね」
大きな水たまりを飛び越えて、翠蓮の気分は少し浮かれていた。
それもこれも、翠蓮が雨が好きという理由にある。
雨は、恵みの雨だから。
雨に救われた、過去もある。
雨は災いの元という人もいるけれど、翠蓮はそうは思えない。
恵みと災いは、背中合わせに存在するものだと知っているからだ。
まぁ、外が大好きな翠蓮からすれば、大きなことが起こらない限り、雨には降り注いで欲しいと思ってる。
こんな雨の中でも、ううん、雨の中だからこそ、あちこちを見て回るのは、冒険みたいで面白い。
晴れている時に美しい景色があるように、雨が降っている時や、雨が上がったあとの景色にも、とても美しいところがあるからだ。
綺麗なところを見つけては、いつも、幼なじみやお兄ちゃん達と見て回ったり、
祥基と無茶して暴れ回って、
その度に、心配性だったお母様に泣かれた。
そんな母に会えなくなって、早くも二年。
「大きくなって、念願の薬師になってからは薬草集めを思い存分してたけど……」
遊んで回っている最中に、とある魔法みたいな薬草を発見したときから、翠蓮の趣味は薬草集めや研究。
花も育てているが、植物が基本的に好きで、毒にも薬にもなるそれを、翠蓮は喜んで研究していた。
「そうそう、ここの路地裏!」
ひょこっと、覗き込む。
どうせなら、懐かしい過去に浸ろうと。
少し、母を、もうない家族の姿を思い出して、悲しくなったから。