「女王が愛した男って……女王というのは、この国の建国者の淑彩苑のことか?」


「そうだが」


「お前は何者なのだ?この宮は……確かに、誰も近付けぬ宮だった。古来、無理に入ろうとしたものは、全て命を落としたという話を聞いたこともある」


「……」


そんな話まで残っているのか。


それなら、今まで実力行使で開けようと試みたものは、沢山いたのだ。


「何者……と、言われてもなぁ」


キィ、と、音を立てながら、また現れた扉を白亜は押し開いて。


「……ここを、守護するものとしか」


そして、見開けた視界に広がったものに翠蓮たちは全員、言葉を失った。


「―あれ?お客様?白亜」


「志揮」


「珍しいね。白亜がここを開けるなんて。あ、それより、見てよ。やっと、昨日の朝儀の内容を書き終えて―……」


全体的に冷え切った部屋の中。


廟と思われるそばにある、ふたつの白い箱。


真ん中で、人形のようにいる人―……。


多くの宝物と思われるものの影から顔を出した青年は、翠蓮たちを目にすると、手に持っていた書物を全て落として。


「わっ、大丈夫ですか!?」


翠蓮は慌てて駆け寄り、しゃがみこんで、その書物に触れる。


書物の表紙に書かれていたのは、『宵始伝』の文字。


飛龍に勧められて、翠蓮が読んだこの国の代表的な歴史書であった。