「"幻芳珠は少量であれば、人の体に良い薬となる。ただし、使い方を誤れば、猛毒。……人の体の腐敗を一時の間、止めることが可能。また、水に弱い為、幻芳珠は水に浸かると、すぐに消えてなくなる”…………それなら、普段より服用していたのなら?水に消えてしまうのなら、やはり……いや、しかし、発見が遅れてしまったのは……あっ!!!」


部屋の中を模索していた黎祥は翠蓮の大きな声に驚いた素振りを見せた後、


「何か、分かったのか……?」


と、不思議そうに問いかけてくる。


「ええ。……凄いですよ、栄仲興を殺した人は」


人の死を導いた人を称するつもりは毛頭ないけれど、これは、あの人だけでは思いつくことではなくて。


「…………私、栄貴妃のお茶会に招待されているんです」


「雪麗の?」


「こんなことがあり、大変、御心は傷ついていらっしゃるでしょう。私、少し、お話をしてきますわ。……貴方の寵姫の、李妃として」


笑いかけると、黎祥もまた、目元を和らげる。


「少し、後宮が騒がしくなるかもしれません」


「……どんなことになっても、私はお前の味方だよ」


「…………ありがとうございます」


近づいて、黎祥の頬に触れた。


黎祥は大人しく翠蓮の手に身を委ね、小さな子犬みたいな彼に笑みが漏れる。


「……朝議まで、時間あります。もう少し、休みましょうか」


「そうだな」


穏やかな時間。


長続きはしない、刹那の安らぎ。


貴方が隣にいる幸せを、どうか今だけでも。