「……貴方は、私を恨まないの?」


翠蓮に恨まれることを恐れる前に、淑鳳雲は祐鳳の父親でもあるのだ。


彼を所望して、護衛にしてから、早数年。


彼の口からよく聞いていた、"憧れの父親”。


それを殺したのは―……。


「恨みませんよ」


見上げると、はぁ、と、ため息をつかれた。


「父から、言われているんです。"貴女を恨むな”、と」


「……どうして」


「翠蓮には話してませんけどね、父に最期に会ったのは牢屋で……父は、俺に言いました」


『決して、灯蘭を恨むな。また、その他のものも恨むな。死んでから、自分の一生に誇りをもてないような、そんな汚いことはしてくるな。私が与えた命(イノチ)で、そんなことをした日には絶縁だぞ。良いか?……お前は、あの公主様を、私のことを何がなんでも救おうとした、心優しい方を、命を懸けて守り抜け。それが、私の、お前への最期の言葉とするよ』


「……要約すると、こんなもんですかね」


「どうして……」


灯蘭は震える手で、自分の顔を覆った。


救いたかった、
救えなかった人に、結局、自分は救われてた。


「私なんて……誰の記憶にも残らないような、そんな……」


優し過ぎる。


どうして、翠蓮も、鳳雲叔父上も。


祐鳳でさえ……あの一家は優しいのか。