「……っ、兄上は黎祥兄上のことしか考えられないの?皆、そうだ。翠蓮の気持ちを無視して……」


「じゃあ、星。星は、何が翠蓮の幸せだと思う?」


「それは―……」


豹の言葉に何かを言おうとして、星は口を噤んだ。


そして、結局、何も言えないまま、視線を落とす。


「…………黎祥の、そばにいることだと思わない?」


黎祥がまだ、皇帝として翠蓮と触れ合っていなかった頃。


確かに抱えきれないほどの幸せを、翠蓮に与えていたのは黎祥だった。


「……っ、」


「翠蓮が必死に頑張っていることは知っているし、あの子自身が誰かの為ならば、命をかける性格なのも知っている。だからこそ、黎祥のそばにいられないことも」


「……」


黎祥と、豹は二歳差。


豹が母に……皇太后に外に逃がされた時、最後まで付き合っていた兄弟は黎祥で、きっと、兄弟の中では黎祥のことをよく知っているのは、自分だと自負している。


翠蓮が命をかけて、人のために頑張ってしまう性格であるように、黎祥もまた、翠蓮を守る為ならば、自分の身を盾にするだろう。


そうしてしまうことに、翠蓮は気づいているからこそ、気持ち揺らぎながらも、黎祥に全てを預けない。