「うっしゃ!なら、もっと、屈強な男になってやる!!秋遠兄上、帰る前に一度、試合って!」
きらきらとした純粋な瞳を秋遠様に向ける、高星様。
「いいよ。いくらでも付き合ってあげるけど、伏せる雄星へ贈り物をするんだろう?見繕っておいで」
秋遠様は優しくそう言うと、高星様の頭を撫でて。
「そうだった!」
高星様はハッとして、すぐに駆け出す。
「翠玉!ちょっと、そこで待っててな!」
その元気な後ろ姿を見送り、秋遠様を横目で見あげる。
「……流雲兄上のことは、誰にもわからないんだよ」
「……」
「そして、雄星が毒を盛られた」
「……毒、ですか」
翠蓮が声を小さくすると、
「高星は知らなくていいことだよ」
と、秋遠様は微笑まれて。
「僕はもうそろそろ、自分の国に帰らなければならない。犯人の仕業なのか、何が狙いなのかは分からないけれど……これまでと、恐らく、同じ毒だ。雄星は僕以上に体が弱い分、毒の影響が多く出ていて……灯蘭は枕辺から、離れない」
「…………なるほど」
状況理解。
妃もやっている、翠蓮にはどれほどの行動ができるか。
「……秋遠様、他にも何か?」
後宮を離れている間の情報収集を秋遠様に頼んだのは、一番、信頼できるから。
灯蘭様でも良かったが、彼女は脆い部分がある。
それに比べて、秋遠様は己を持っている人だから、後宮内を見張るのは灯蘭様、導き出すのは、伝言は秋遠様に頼んでおいた。
「流雲兄上からの、伝言。時間があったら、後宮書庫に来てくれと。聞きたいことがあるそうです」
「分かりました。……他には」
「……言おうか迷いましたが、言っておきます。灯蘭、どうやら、少し前の日……何かを見ているようなのです」
「何かを?」
「怯えて、部屋から出てこなくなりました。あなたの帰りを心待ちにしていたのに」
「……」
「最後に、栄貴妃様から碧寿宮を訪ねるように、とのことです」
それが、翠蓮が後宮から離れていた間の出来事。