「……黎祥は、優しいね」
ぽたり、と、黎祥の胸に頭を預けた翠蓮の瞳から、涙が落ちる。
「私は優しくない。優しいのは、翠蓮、お前だ」
「……皆、そう言うね。でも、私は優しくなんてないよ」
ぎゅ、っと、翠蓮は黎祥の衣を掴んで。
「何度だって、汚いことも考えたもの……だから、綺麗でもないし、優しくもない。ただ、自分が救われたいだけ……。薬師になったのも、人を救いたかったんじゃない。人を救ったという事実で、自分を生かしたかっただけなの……」
黎祥だって、王になりたいわけではなかった。
ただ、母を、"家族”を殺し、黎祥から大事なものを全て奪った人達を、殺したかっただけ。
今でも覚えている。
骨と肉を断つ感触。
―この国は、黎祥から多くのものを奪った。
滅べばいいと、何度も思った。
でも、今は。