「―……あっ」


女の笑顔を見て、顔を曇らせた若琳。


そんな若琳に気を取られる暇もないまま、そこに割り込むように入ってきた声で、女は扉に顔を向けた。


立っていたのは、小さな少女で。


「申し訳ありません。李修儀はお休みになられているようで……」


―逃げられたか。


侍女と思われるこの一言から、予測する。


用心深い、彼女のことだ。


きっと、翠蓮は女を"警戒した”。


「……そうですか。ありがとうございました」


さて。


栄貴妃様に、どう伝えるか。


(―そのまま伝えても、問題ないよね。だって、翠蓮だもの)


裳(スカ-ト)を翻して、踵を返す。


すると、後ろから若琳がついてくる。


―一体、なにがどうして、こうなってしまったんだろう。


ただ、幸せになりたかっただけのはずなのに。


記憶の中、真っ赤な血。


全身浴びて、女は嗤う。


友達ではない、知り合い関係で収めておきたい関係性。


(翠蓮は上手くいったのに―……どうして、私はこうなんだろう)


手を血に濡らし、それでも、と、生きてきた日々はほの暗くて。


もう、帰り道もわからない―……。