今回の彤史は、黎祥の息のかかったものらしい。
どこまでも、嵐雪と皇太后の策が張り巡っていて、相変わらず、計画性のあるやつだとも思う。
「……なぁ、若琳(ジャクリン)」
話しかけると、
『どうかなさいましたか?』
優しい声が、返ってきた。
彼女は……黎祥の息のかかった、忠臣。
平等に人を愛し、平等に人を守ろうとする若琳。
「お前は、今の自分の身の上に後悔しているか?」
『……』
本当の名は、練花美(レン カビ)。
じっとしていることが苦手な性分の多い、練家の令嬢であり、妃として着飾り、皇帝に愛されるよりも、自分の自由に生きることを望んだ、変わり者。
『……後悔はしておりませんわ』
暫くして、ハッキリと返ってきた言葉。
「そうか……」
静かな、時の中。
どうして、自分が皇帝をやっているのか。
合法的だけども、こんな形で翠蓮を手に入れたくはなかった。
(それに、翠蓮の父は―……)
皇太后の言葉を思い出しては、苛まれる。
翠蓮は家族を喪ったことによって、孤独になった。
一人で泣くことになってしまった。
翠蓮を見ていると、翠蓮がどれほど、父親を慕っていたのか分かる。
その父親は……黎祥を守るために死んだなど、どうしてそんなことを、"皇帝であるのに”、今まで自分は知らずにいたのか。
『……陛下は後悔しておりますの?』
黎祥にいる、数少ない理解者。
躊躇いがちに返ってきた言葉に、黎祥は乾いた笑みを漏らした。