【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―




「いい?絶っ対に、死ぬのは駄目よ。私のためというのなら、私を守るというのなら、私のために死ぬ選択だけは許さない。絶対にしないで」


人の命を犠牲にしてまで、翠蓮に生きたい願いなどない。


「じゃあ、約束しよう」


飛龍は涙の伝った翠蓮の頬を撫でると、


「死なない。傷つかない。それは約束するから、もう泣き止んでよ。翠蓮」


と、言ってくれて。


「……儂も、極力は努力しよう。じゃが、そのためにそなたを見捨てることはせぬからの」


「僕も……翠蓮を見捨てること出来ないよ……」


死なないから、だから、それだけは見逃せと言われて。


何も言えないでいると、


「……二人は頑固者だから……ねぇ、翠蓮。許してあげてくれないかな。二人はね、翠蓮を愛しているんだ」


と、飛龍が事態の付け加えをしてくれて。


「でも……」


「儂らはそなたを守るために存在しとるんじゃ!そなたがいなければ、儂らに存在理由がなくなるじゃろっ!!」


「……」


飛燕はそう叫ぶと、


「分かっておくりゃれ……そなたは儂らにとって待ちわびた、人間……この国がどうなろうと、儂らは翠蓮が幸せに笑っておればいい」


そう、俯く。


―飛燕は、翠蓮の衣をぎゅっと握りしめて。


何故だろう。


いつか、遠い昔、こんな光景を一度、見た気がする。


幼い童女ではなく、成人した麗しい男性が泣いているのだ。


翠蓮の死を悼んで。