「それより、お腹すいたな。黎祥、辛いものはいける?」
「辛いもの?」
「ここの串焼き素麺は、唐辛子をたっぷり使ったものが美味しいの。火を噴くほど辛いけど」
「……辛いものは、ここ数年食べていないが……好物だ」
「じゃあ、いっか。おばさん、激辛で」
「あ、ああ……」
おばさんが、戸惑ったように頷き、厨房へ行く。
「翠蓮!あんた……」
結凛が声を上げたけど、翠蓮は微笑むだけにしておいた。
泣くのは、やめた。
泣いたって、何も変わらないんだからと。
心配そうな結凛の視線を受けながら、翠蓮は水を一口、飲んでみる。
それでも、記憶と共に甦った喉の乾きは消えてくれず。
「―大丈夫か?」
気遣う黎祥は、きっと、全てを受け止めてくれるだろう。
優しい、人だと知っている。
「お待ちどうさま」
おばさんは、激辛串焼き素麺を黎祥と翠蓮の前に出して。
「いっただきまーす」
箸を手に取り、翠蓮は手を合わせた。
黎祥の視線は、大丈夫じゃないだろう?、と聞いてきているみたいで、落ち着かない。
おじさん達も、黙り込んでしまって。
「食べないと伸びちゃうよ。皆」
翠蓮がそう言うと、彼らはおもむろに箸を手に取る。
「……もう、大丈夫だから」
熱々の素麺を冷ましながら、翠蓮はただ、微笑んだ。
「翠蓮」
優しい声が、翠蓮の名前を呼ぶ。
玲瓏に響くその声に、翠蓮は。