「それにしても、自分から名乗れ、か……久しぶりに言われた言葉だな」


意識のない女の子を抱き抱えながら、彼はクスクスと笑う。


自分の命を狙ってきている相手だとわかっていながら、こうも簡単に抱き上げるなんて……危機感が薄いのか、それとも、それだけ強いのか。


「私の名前は、淑……いや、ここで、その名はまずいな。趙流星(チョウ リュウセイ)だ。年は、現皇帝の三倍くらい。とある理由で、淑の姓を捨てたしがない旅人だ」


趙家……ということは、やはり、追放されたのか。


行き場のない人間を救う趙家は、昔、栄えていた家らしく……皇族の信頼も厚いらしいから、そこに逃げ込む人が多いのだろう。


「……私は、李翠蓮です。年は十八。薬師をしています」


約束通り、相手が名乗ってくれたので名乗り返すと、


「母君に似て、美しく成長したね。翠蓮」


と、黎祥にそっくりな笑顔で言ってくる流星さん。


「母を、ご存知なのですか……?」


「まあ……でも、父君との方が関係的には近いよ。弟だから」


さらり、と、告げられた真実。


「……え?」


間抜けが声が出たのは、許して欲しい。


「聞いてなかった?私は、君の伯父だよ。初めまして」


聞いたことの無い存在……と、いうことは、つまり。