「少し、気絶させただけだ」


最後に深く墓に頭を下げて、彼は振り向く。


瞬間、息が止まるかと思った。


「名を尋ねたい。貴女は、李翠蓮か?」


「……」


血が騒ぐ。


どうして―……どうして。


いつも、いつも、忘れられそうな時に、思い出してしまうようなことが起こるの。


「……」


「聞こえて、いるか……?」


近づかないで。


顔をのぞき込まないで。


(私は、私―……)


「……どちら様ですか」


「え?」


「人に名前をたずねる前に、自分から名乗って下さい」


両親の墓参りをしていたということは、きっと、悪い人じゃない。


でも、理解出来ない。


どうして、こんなにも―……。


「黒髪に赤い瞳は、皇族の証です。……貴方は、現皇帝陛下の血縁なのですか……?」


黎祥に、似ているの?


生き写しのようで、黎祥を目の前にしている気分だ。


似すぎていて、吃驚する。


兄弟姉妹だった、灯蘭様たちですらこんなに似ていないのに。


こんなに息が止まりそうになるのは、悲しくなったのは、彩姫様を見た時以来だ。


「皇族……ああ。君も、皇族を恨んでいるのかい?」


けれど、翠蓮の質問を斜め上の解釈をした彼は、翠蓮に質問してきた。


「は?」


訝しげに聞き返すと、


「皇族のせいで、この国も民もえらく傷ついたことだろう。その子も……その被害者だ。皇族に恨みを持っていて、私も殺されそうになった。でも、残念ながら、殺される訳にはいかないんでね」


黎祥によく似た声音で、彼は言った。


皇族と分かってて斬り掛かるなんて、当たり前だけど、極刑に値する。―……彼は帯剣しているし、気絶させたことはひどいとは思うけれど、斬り捨てるより、遥かに易しい。