後宮で毒の燻火が渦巻いている中―……下町ではいつもと変わらない時間が、日々が過ぎていた。


「お前が後宮に行くまで、あと何日だ……?」


「意外と時間があるかと思ったけれど、色々としていると、すぐだね」


「だな。―あ、この煮物旨い」


食事の席で、なんでもない話をしている日々。


昔のような、その場に母や父、幼い弟妹は居ないけれど。


それでも、兄ふたりと囲む食卓は温かくて、一人で食べていた日々が、もう遠い日のように感じられる朝。


「翠蓮、教育の方は順調?」


「どうなんだろう……お母様のおかげか、私、姿勢などは完璧みたいなの。作法も、普通に貴族の令嬢のように出来ているって……怜世さんには褒められてね。―吃驚よ。何気ないようにしていたことが、こんな所で役に立つなんて」


生き抜くために必要なことを徹底的に叩き込んでもらいながら、薬を作り、そして、下町の子供が勉強するための学問所を作ったり、下町に生きる人のための救済所を作ったり……日々、大忙しだけど、それでも、翠蓮は皆と楽しく過ごしていた。


願わくば、この日々が変わらないよう。


慧秀兄様は、普段、官吏のための宿舎で生活しているらしい。

一方で、祐鳳兄様は当たり前だけど、灯蘭様のそばで休んでいるんだって。


護衛だしね、仮にも。