「新しい妃を傷つけることは、私が許しません」
優しさは、弱さだ。
慈悲深いのは、愚か者の証。
情は足を引っ張る足枷で、良心があっても、この場所ではなんの利益も生み出さない。
あの日までは、彼女だって信じてた。
他の妻がいても、誰かに愛される幸せを夢見てた時期があった。
でも、それは夢物語だ。
空想だ。
幸せなんてないのだ。
この後宮に、足を踏み入れたんだから―……。
あの子を宿している時に、夜伽できなかった。
もう、殺される。
彼女も、彼女が守りたい幼子も、皆、皆―……。
「非道になれ。でなければ、ここで生き残れない」
意識を失った先輩から離れた女。
彼女は自分の鼻と口を衣で押さえながら、抵抗した。
その行為にすら、彼女はニッコリと笑って。
「さぁ、貴方も……」
―その夜、聞くに耐えない声が後宮に響いた。
でも、誰も気づくものはいなかった。
そして、翌日。
血に塗れた短剣が、皇宮と後宮を結ぶ回廊で発見された。
女が、三回目の罪を犯した証拠だった。