「母も、言うと思います。貴女は素晴らしい人だと」
黎祥は辺境の地で聞かせてもらった皇太后の話を、彼女にした。
母の瞳は、声は、いつだって優しかった。
心の底から父を愛し、
皇太后を信頼していたのだ。
「貴女は間違いなく、私のもう一人の母です」
黎祥の話を聞ききながら、彼女は涙を流して嗚咽する。
「これからも、この国を守る手助けをしてください。どうか―……共に」
皇太后は、行き場のない皇族の子供を引き取っている。
一族が処刑され、その家の女を母と持ってしまった皇女、皇子などを救っているのだ。
だからこそ、黎祥は少しばかり、救われた部分がある。
何もかもを壊し、血の海にする中でやけになっていた黎祥を毅然と前から見て、怯えずにいてくれたのは皇太后だけだった。
「父があなたを信じ、任せたように……私も、任せます。私は今、この状況に感謝していますよ。貴女は存じ上げていることですが、貴女がいなければ、私は翠蓮と出会えなかった」
死生有命とは、まさにこの事だ。
命の終始は、運命。
天命により、人間は生きているのだ。
だから、きっと、これらも運命だったと思える。
「……やっぱり、似とるの……」
「父にですか?」
すると、皇太后は微かに笑って。
「彩蝶にも、祥星様にもじゃ。豪快で、人を簡単に許してしまう。優しさに溢れた……っ」
その時、翠蘭の頭の中で過去が巡った。
自分が"いなくなった”後も、翠蘭がここで生きていけるように……帰る場所のない翠蘭を、救ってくれた先々帝。
「……幼き、祥星様に似た皇子達は成長したの。それも……立派に……」
黎祥は彼女の言葉に笑みを漏らして、小さく頷く。