(歩き回る皇太后っていうのも、珍しいと思うがなぁ……)
知れば、知るほど、父が何故、母……寵妃と皇太后を同等の扱いをしたのか、分かってくる。
彼女は聡明でいて、美しい。
夫を立てることを知っており、決して、自らの感情に身を置かない。
常に冷静に、物事を判断する。
そういう女は『皇后』の、ゆくゆくは『皇太后』の器なのだ。
民を思いやり、皇帝と同じ目線で、国の未来を見れる女。
『黎祥!』
そう考えた時、翠蓮が頭に浮かぶ。
生活は全く異なるのに、生活の中で翠蓮を思い出してしまうのは、自分がまだ、彼女を愛しているからだろう。
「今更ですが……」
「え?」
「先帝の子女を殺さないでいてくれたこと、心より、感謝しています」
「……」
言葉を、失った。
一体、どういう話の流れで、そこにたどり着いたのだろう。
「見えますか?あそこ」
目を丸くしていると、皇太后は後宮を覆い囲う門の近くで振り返り、指さして。
木々の隙間、走る小さな影。
後宮の端の、広場だ。
駆け回れるよう、黎祥が作った。
「あの子達は、まだ幼い。貴方が救ってくれたお陰で、未来がある」
「……」
冷たい、風が吹き抜ける。
乱れる髪を押さえながら、遠い目をする皇太后。