『翠蓮、覚えておきなさい』


昔、荒れ果てる国の惨状の中、


たまたま、市場に行った帰り道。


処刑場で、罪を犯した人達の処刑が行われていた。


父は罵詈雑言を吐く人間に囲まれた処刑場を遠くから眺めながら、そっと、手を合わせた。


『お父様……?』


そして、泣いた。


一筋の涙を流して、半刻くらい黙って、父は手を合わせ続け……最後に、微笑んだんだ。


罪人の首が落ちる度、歓声が上がる。


それを聞いて、


『……翠蓮、覚えておきなさい』


と。


夕日に照らされるお父様の黒髪は美しくて、綺麗で。


『人を思うことに、正解も不正解もない。例え、その者がどんなに悪人だったとしても、自分が信じたいと思うのなら、愛したいと思うのなら、思い切り信じ、愛せばいい。それで非難されたとしても、自分の意思に従ってしたことなら、後悔することもないからね』


……今思えば、あの時、処刑されていた一家は父の知り合いだったのだろうか。


父はその後も、涙を流した。


そして、相手の冥福を祈った。


自分の法に従い、自分の心を信じる父様が翠蓮の自慢でもあった。


翠蓮は麟麗の頭を一撫でして、


「……思うことに、正解も不正解も無いんですよ。麟麗様」


と、微笑みかけながら、手巾を差し出す。


小さく頷いて、散々、涙を零した麟麗様は半刻の後、


「―じゃあ、御鞭撻、よろしくお願いします!」


再度、やる気を再燃させ、机に向かう。


そんな麟麗様を見て、


「はい、喜んで」


翠蓮は微笑んだ。