【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―




「私が、いえ、私達が皇子として生まれなかったから。いつも、いつも、母は怒っていました。父の前では笑顔で媚びへつらい、私達は多くのものを与えられて、着飾らせられた」


「……」


「父が他の妃の元に通っていると、鬱憤晴らしに殴られました。鈴華は傷つけて欲しくなかったから、代わりに私が。あの人に愛情なんてなく、自分勝手で。双子だって……お父様の子なのは確かなのに、母君が誰なのかはわかりません。お母様が、盗んできたんですもの」


双子の片割れは、皇子だったから。


皇子を産めなかった円皇后は、夫の愛情を自分のところに引き留めようと必死だった。


けれど、そんな思いを知らず、晋熙帝は新しい妻を娶り続けた。


「お母様にとって、宵琳は要らなかった。でも、双子の弟の叡季はお母様にとっては必要だったのですわ。皇后の権力を保つため……お父様が皇太子時代の唯一の妃として、最上位にいたものの、すぐ下には第一皇子、第二皇子を産んだ、楚妃と程妃がいましたから」


楚妃―楚天華(ソ テンカ)は、先帝、晋熙帝の妃だった。


先々帝、龍炯帝の妃、楚太昭華―楚仙麗(ソ センレイ)【先々帝の間には、先々帝第四皇女・鏡佳を産んでいる】の姪で、晋熙帝即位式の日に、入宮した女人だった。


最初の頃は存在すら無視されていたそうだが、猜疑心の強かった晋熙帝に何が起こったのか、一時期寵愛され、第一皇子の慧央(ケイオウ)様を産んでいる。


こんにち、慧央様はまだ、齢七歳という幼さだ。