【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―




「……だが、そうすると、上で過ごしていた楽園は望めなくなるぞ」


でも、そんな麟麗様に手厳しい言葉を、祥基はぶつける。


「それでいいのか?仮にも、元皇女なんだろう?贅沢はないぞ。寒い時に暖を取る方法もないし、蝋燭は高いから買えない。だから、早くに眠りにつく。力仕事は沢山あるし、食事を抜く時もある。幸い、俺や翠蓮の家は恵まれているが、少しでも商いでしくじれば、真っ逆さまだ。そんな、この下町で生きる覚悟が、お姫様にあるのか?」


その通りだ。


翠蓮たちみたいに、生まれた時から下町で生きているならいい。


でも、一時期でも、至上の生活を経験しているのなら、ここでの生活は苦の他にない。


けれど、そんな祥基の言葉にも、麟麗様はニッコリと微笑んで。


「あります。寒さは苦手だけど……そこは耐えます」


「……」


「寒さくらい、母の折檻に比べたらマシですもの」


と、平然とした顔で言う。


「折檻、だと……?」


貧しくても、戦争でどれだけ嘆いた過去があっても、祥基たちは勿論、親から折檻されるなんてなかった。


親の愛情は満遍なくもらい、育った。


けど、麟麗様と鈴華様は違う。