「麟麗様も、そう思いになります?」
「ええ。今度の後宮入りのことについては、李将軍に任せていいと思う。それに、翠蓮の人のためにと頑張る姿は私の憧れでもあるし、格好良いわ。でもね、お父様とお母様が残してくれたものには手をつけない方がいいと、私は思うの。お兄様方を見ていると、思う。翠蓮はとても、とても愛されて育ったでしょう?大事にされて、愛情を受けて。だから、それを失ってしまった時、翠蓮は動けなくなった」
少し前、自分の家族事情について、麟麗様に話したことがあったなと思いつつ、彼女の話に耳を傾ける。
「お金が必要なら、私の要らないものを売るから。必要なものは全て、横に退けたんだけど……ほら、後宮から抜け出す時、たくさんの布袋があったでしょう?」
「ええ。それが、どうかしましたか?」
「あれね、要らないものなの」
「……」
麟麗様は、少し困った顔で。
「後宮に、ある程度は残してきたわ。きっと、順大学士が換金して、上手く利用してくれるだろうと思って……その隠し場所はこれからまた、後宮に向かう翠蓮に託すつもりだったのだけど……」
そう言って、麟麗様が取り出したのは恐らく、翠蓮たち下町で生きるものが一年、余裕で暮らせるだろう価値のある簪。

