「……肩の傷、もう痛くない?」
祥基の肩口に頭を寄せて、尋ねると。
「何年前の話をしてんだよ。もう、痛くも痒くもねぇ」
「……」
二年前。
阿呆なくらいに、場を動かなかった翠蓮。
阿呆だ、馬鹿だと言いながらも、そばにいてくれた祥基は瓦礫が翠蓮に向かって落ちてきた時、体を張って庇ってくれた。
その時の傷は悪化することなく、治ったけれど……それでも、傷は残ってしまって。
謝り倒す翠蓮に怒るわけでもなく、
『無事でよかった』
と、笑ってくれたこの人は、翠蓮の恩人だ。
「……人のことはいいから、泣けって」
「……泣かない」
「相変わらず、頑固野郎め」
「泣いたら、おじさん達が心配するでしょ」
「親父達はいねぇよ。お前と話すから、と言ったら、家をあけてくれた」
「…………そっか」
ぎゅう、と、祥基の衣を握る。
「……っ、ごめんっっ」
「良いって。どうせお前、兄貴達の前でも泣けねぇんだろ」
全てをお見通しな、祥基。
幼なじみは馬鹿に出来ないな。
「黎祥の前なら、泣けるのか」
「……」
「……今、この名前は聞きたくないな。悪い」
忘れなきゃ。
忘れなきゃって。
薬師としている間、何度、泣いただろう。
色んな人が、大丈夫?と言ってくれた。
黎祥に出会ってから、色んな人と関わるようになった。
大切な人、守りたい人が増えた。
そして、自分の涙腺は緩んでしまったように思うよ。