「儀式には、女王の遺体が必要なんやって?」
「神殿で大事に保管されていたそうだが、寸前で煙のように消え失せたらしい。それが見つかるまで、儀式は行えないと」
そのせいで、この二カ国の王は足止めされているわけである。
「そうですか……大変ですね」
「大変というか、面倒やな」
「本当に……」
同情してくれる二人。
黎祥が頭を抱えて俯くと、
「お前の後宮におる美人を身代わりにしたら?」
などと、軽く言う蒼月。
「生きている人間を、木乃伊(ミイラ)に見立てろと?」
「女王の遺体、木乃伊なん?」
「見たことないから、知らないが、千年近く前の遺体だぞ。腐っていてもおかしくはない」
「腐っているものに触れて、自分の治世の平和を祈るん?それはそれで、俺は嫌だな〜」
蒼月の言葉に腐っている女王の遺体を想像して、確かに、と、背筋が冷たくなる。
人を斬り殺した経験があっても、それを忘れられる訳では無い。
実際、実兄の首を跳ねた感覚、この二年、忘れられた日はない。
『お前―……っ!』
兄を慕っていたわけでは無かった。
この国を救いたいと思っているのも、本心だった。
だけど、剣を振るった時、浮かんだのは母の顔だった。
母は父に関わるもの全てを、愛すような人だったから。

