百年ほど前の王ですら、一番愛したのが異民族の女だったにも関わらず、貴妃という位につけて、皇后にはしなかったほどだ。


柳皇太后から話を聞くように、やはり、かなり傲慢で、自分に自信があったんだろう。


だから、手に入らなかったことを、彩蝶様に八つ当たりしたのだ。


第六皇子を産んだだけなのに、同じ異民族の娘なのに、第一皇子を産んだ湖烏姫よりも、彼女が優遇されたから。


「そこで、あの事件よ。黎祥が湖烏姫を殺したということを聞いてから……考えてみれば、そうね。その時から、先帝は益々、黎祥を目の敵にしていた気がする」


誰よりも観察眼は長けていても、人前に出ることが苦手な彼女。


夢中になれば、他の目など気にならなくなるらしいが……うん、重病だ。


「そんな黎祥の、一年目の生誕を祝う宴で、私はあの目を見たんだわ」


「誰ですか?」


彼女は少し重苦しい面持ちで、


「―淑鳳雲(シュク ホウウン)様よ」


と、言った。


その名前は唯一の先々帝の同母弟であり、黎祥様の革命軍に協力した、黎祥様が本名は知らずに慕い、そして喪い、また、冥福を祈る相手の名前であった。