「黎祥の母君である、彩蝶様はお父様の寵姫で……順大学士も知っているでしょう?」
「はい。父から話を聞いたり、朧気ですが……少しだけ」
「辺境へ追いやられてから、唯一、あの二人を支えてくれたのは、貴方かた、順家のみでしたものね……」
皇帝が代わり、その皇帝が黎祥様たちを嫌っている、望みがないと分かってからは、今まで、二人にすり寄ってきていた勢力は二人を見捨てた。
異民族出身で、ただでさえ、後ろ盾が皇帝の愛情だけだった彩蝶様は黎祥様と二人、心苦しい思いをなされた。
それを救おうと、救って欲しいと願ったのは、後宮内で彼女と親しくしていたもの達で、その嘆願を聞き入れ、我ら順家は彼ら二人に手を伸ばした―という経緯がある。
勿論、先帝の御世では何もいい事なんてなかったし、逆に何度も、我が家は窮地に晒された。
それでも、黎祥様と彩蝶様を見捨てなかったのは、二人に何も否がないことは分かっていたし、何よりも、皇太后が頭を下げたのだ。
―守ってやってくれ、と。
いつしか、黎祥様に振り回される自分がいた。
彼を支え、いつかこの国を蘇らせようとする、自分がいた。
悲しそうに笑う、黎祥様について行こうと、自分の心に誓った自分がいたのだ。
「彩蝶様の止めがあったから、偏愛とまではいかなかったけれど……黎祥が一番愛されていたのは、子供の私たちの目から見ても分かっていたわ。黎祥は皇子の中で一番、父上に似ていた。だから、臣下からの期待も大きかった」
「……」
「だからといって、その評価に黎祥自身がふんぞり返ることも無く、きちんと定められたことはして、私たちを敬って……正しい努力を正しいだけして、父上に愛されていた。けれど、その努力できないものは湧き出る理不尽な怒りを全て、黎祥と彩蝶様にぶつけたのよ」
その代表格が先帝ね、と、彩姫様は言った。