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「……思い出したわ」


全ての事が嵐雪の考える通りになり、集まってもらった皆様に今までの事情を話し、協力を得られた日。


すぐさま皆様にはそれぞれの持ち場へと帰ってもらい、翠蓮殿は栄貴妃に話をして、暇を頂き、李将軍と共に下町へ帰るのを見届けて……自分は彩姫様を宮に送り届けようと、回廊を歩く道すがら。


ふと、呟いた彩姫様。


「どうかなさいましたか、彩姫長公主」


「わっ、順大学士!?あれ?皆様は……」


よっぽど、自分の世界にふけっていたのだろう。


周囲を見渡して、慌てる彼女に経緯を説明すると、


「ごっ、ごめんなさい!私ったら!!」


また、慌て出す彩姫様。


「いえ、構いませんが……思い出したとは、先程仰っていた、翠蓮殿に似た御仁のことですか?」


確認の言葉に、彩姫様は頷いて。


「ええ。思い出したの。あれは、そう、黎祥が……陛下が生まれて、一年目の春……」


「陛下が?」


先々帝の寵愛が最も厚かった、念充儀……念彩蝶の息子として生まれた、淑黎祥―現皇帝陛下は、先々帝が力を失うまで、それはもう、後宮で大事に育てられていた。


先々帝が力を失ってからは、先帝による迫害で、辺境へ追いやられ、彩蝶様は不運な晩年を送られたが……少なくとも、先々帝に力があった頃は、一番愛された妃は念充儀であり、愛された子供は黎祥様だった。