「私のことはいいから、自分を守りなさい」


「いや、私のことにお前を巻き込むんだ。守らせてくれ」


「でも……今度は、急所を外されるって保証はないのよ?」


「……」


「今度こそ、死んじゃうんだから」


今現在、助かっているのも、正直、驚いている。


だって、普通、動けないのに……手当て直後から、黎祥は元気だ。


包帯に血が滲んでいたとしても、黎祥は気にならないと言う。


驚く他、ない。


「……それは困るな」


きょとんとした顔をした後、神妙な顔で頷いた黎祥。


「気をつけるから、ついて行ってはダメか?一人で見送ったあと、ここで一人過ごすのも、物寂しい」


「寂しいって……」


「何より、私を信用して家を空けるなど……不用心すぎると思わないのか?」


そう言われましても……。


「何もしないでしょう」


「……」


「黎祥は何もしないと知ってるもの。つまり、信頼しているの。だから、家を預けるのに、抵抗なんてないわ」


黎祥は驚いたように目を見開いて、


「……君は、私のことを何も知らないのに」


―何かを呟いたが、翠蓮の耳には届かない。


「え、何?なんて言ったの?」


「……何でもない」


はぐらかされて、翠蓮は首を傾げる。


「何なのよー?」


それでも、黎祥は答えてくれなかった。


翠蓮はため息をついて、


「―わかった。でも、お願いだから、私の目の前で死ぬような真似はしないで頂戴」


「心得た」


「なら、よし。じゃ、早く行って帰ってこよ」


翠蓮がそう言うと、黎祥は満足げに笑った。