「……っ、大丈夫よ。ありがとう、秋遠。それにしても、本当に良かったわね。漸く、また、陛下に仕えることが出来るわ。翠玉様に、感謝しないとね」


秋遠様の気遣いに感謝しながら、すぐに顔を上げる高淑太妃様は、そう、秋遠様を励ます。


「はい」


高淑太妃様の言葉に、嬉しそうに笑う、齢十九の秋遠様は本当に兄が……黎祥のことが好きなんだろう。


純粋な好意は、ここでは珍しい。


一重に、大切に愛されて育ったからだと、高淑太妃様が権力争いに巻き込まれぬように大切に慈しんだんだと、秋遠様の人柄から察せる。


自分よりも年上の人の発言を微笑ましいと思いながら、陛下、という単語に逸る胸。


愚かなことだ。


もう二度と、黎祥なんて呼べる日はないのに。


「そう言えば……内楽堂、かなり見違えたそうですわね」


ふと、出された話題に、翠蓮は笑って。


「ええ。手当たり次第、処分するものを再利用して、綺麗にしていっているんです。体調を良くするのに必要なことは、清潔な場所と滋養のある食事、そして、睡眠ですからね」


取り掛かり始めて少ししか経っていないが、もう既に何人か、内楽堂から出て、己の職務に戻っている人達がいる。


「そうなのですか……翠玉様は、きちんとお休みになられていますか?」


「ええ、勿論」


半分嘘で、半分は本当。


それでも、自分の体調管理には自信があるし、問題は無い。


黎祥のことで一度泣いてからというもの、麟麗様や鈴華様の口数が増えた気がする。


何故、翠蓮が泣いていたかまでの理由は察していないようだが、たまに、暗い顔をしているらしい。


それを晴らすため、彼女達は笑顔でいてくれているのだ。


本当に、優しい人たちだと思う。