「伯母上は、昔から感が鋭すぎます」


「あら、褒め言葉?」


「すいません、翠玉様。伯母上に気づかれまして……」


「フフッ、黎……皇帝陛下に害がないのなら、私は構いません」


そう、黎祥に害が及ばないのなら。


彼が生きていてくれるのなら、もういいんだ。


命を投げ出さないでいてくれるのなら、それだけで……それだけて、翠蓮も幸せになれるはずだから。


偽りを吐くなと言われるこの後宮では、嘘をつかなければ生き抜いていけない。


生きたければ、程よく嘘をつき、程よく真実を口にしなければならない。


艱難辛苦だらけの茨道、


その中でも、黎祥の隣で生きることを翠蓮は放棄した。


妃の最大の責務は、後嗣を産むこと。


ただ、皇帝の子供を、帝胤を宿すためだけに、妃達は厳重に守られ、誰もが羨む贅沢な暮らしを約束されているのだ。


(そんなの、御免だわ……)


多くの女性がいる後宮で、命を削りながら、黎祥の横に立つなんて覚悟が、翠蓮にはない。


生涯、愛される保証もないのに、その中で後ろ盾もない翠蓮がどうして生きのびたいと願うだろう。


枷のつく生活を送るくらいならば、


黎祥のことで苦しむくらいならば、


翠蓮は人を救って、死ぬほうがいい。


苦しくても、前に進むと決めたのだ。


だから、自身の命をかけてでも、人を救いに走るのだ。


約束した。


黎祥を愛し通せないのなら、黎祥の子供を守ると。


黎祥の子供たる、この国の人々を守ると決めたのだ。