「昔、何かあったので?」


この後宮で起こったことといえば、嫌な予感しかしない。


すると、順徳太妃は清々しい笑顔で。


「フフッ、少し、毒を盛られたのですよ。私が陛下の寵愛を賜って、雄星を懐妊していたときに」


あまりの笑顔に、軽く身を引く。


「……それ、笑って話す内容ですか?」


毒を盛られてなお、笑える強さ。


非難を受けることは常のこの後宮で、清潔ではいられない。


生き残るためには、汚いことにも手を染めなければならない。


どんなに辛くても、笑っていなければならないんだ。


「後宮では、よくあることですわ。あの事件のせいで、雄星が体が弱くなってしまったのは、とても辛かったですが……まぁ、既に済んだことです」


「済んだこと……」


「ええ。何より、蘇家は期待も大きかったようですし……我が順家は、皇帝陛下を支えたい一心ですが、他の家は違います。板挟みになることは、きっと辛いこと。先々帝は皇太后様と彩蝶様を特に大事になさってましたから……仕方がない、ことですわ」


「辺境に送られた陛下の面倒を見られていたのは、順家だと伺っています」


「フフッ、そうなんですよ。私は報告だけなんですが、辺境に送られた陛下をお支えするため、嵐雪の父である私の弟、炯然(ケイゼン)は駆け回っていたようです。何せ、とんでもなく無鉄砲な幼子だったそうで」


無鉄砲な子供―それが、黎祥の幼い頃。