「貴女のことを助けたい」


「……」


「ですから、内楽堂には近づかないでください」


嵐雪さんは、わかって言っている。


翠蓮が、見逃せる性格ではないことを。


彼に優先すべきが家であるように、


翠蓮にとっても優先すべきは、人の命なのだ。


だから。


「……ごめんなさい」


翠蓮は深く頭を下げた。


「今まで守ってくれて、ありがとうございました」


敵だらけになっても。


例えいつか罪人として、死んだとしても。


きっと自分は後悔しないし、


胸を張って、黄泉へと向かうことだろう。


「順内閣大学士、守れないって……翠玉が、誰かを害すると言うの?」


「そうではありません。けど、ここは後宮だ」


「……」


「灯蘭様たちも、お分かりになるでしょう。今がどれだけ、危ない時期か」


生まれた時から、後宮で生きてきた皇子公主。


俯き、何も言えない三人は。


「……私でも、ううん、私たちでも、庇えないかしら?」


と、嵐雪さんに尋ねる。


「それでは、結局、順家の不利となります。今、後宮内で生死を彷徨っていられるのは、国にとって大事な方々─渓和王・秋遠様をはじめとして、泉賢妃など─ばかりですから。蘇太貴妃様も、お倒れになられたと聞きましたし」


「蘇太貴妃様って……第二皇子の?」


「ええ。翠玉様も、お会いしたことはあるでしょう。第二皇子の母君であり、先々帝の後宮において、二番目に地位の高いお方でした」


嵐雪さんの口調は淡々としていて、感情はなく。


黙って聞いていた灯蘭様が、不思議そうに首をかしげた。


「蘇太貴妃が倒れたという情報は、翠玉の元に連絡は来なかったわ。祐鳳に確認させているけど、そんなのないもの。―ねぇ?」


背後に控えていた兄を見上げた灯蘭様の問いに、兄は頷いて。