「ダメよ。……ここに来たばっかりだと知らないかもしれないけれど、私たちは死に損ないなんだから。貴女が手を貸すのはダメなの」


翠蓮の申し出に、首を横に振って。


それが、当たり前。


それが、当然だというように言う彼女。


この環境が、そうさせた。


「……死に損ないだなんて言わないでくださいな」


額に当てられていた布を取り、別の渇いた布で汗を拭き取る。


「誰にも話しません。私は今夜、何も見てません。だから、私を頼ってください。一人で抱え込んでは駄目ですよ」


荒い息をあげる、幼子。


診察する限り、ただの風邪であることが救いで。


この毒の舞う後宮で、命を繋いでいることに誇りを持って。


「翠玉?」


「はい、何でしょう。鈴華様」


つんつんと服を引っ張られて、目を向けると。


「お姉様を、救って」


小さな瞳が、翠蓮を捉える。


「お姉様、私たちを守ってくれるの。だから……」


この後宮で、忘れ去られた存在。


身を隠さなければ、いけない存在。


それは。