「わらわは誰の最愛にもなれませんでしたが……この人生に、後悔したことはありません。翠蓮、そなたはどうですか?」


「……」


「……はっきりと聞くのなら、黎祥を、まだ愛していますか」


真っ直ぐに、心に入ってきたその言葉。


その言葉で、堰き止めていた”何か"が翠蓮の瞳からは溢れた。


聞いてはいけなかった言葉。


踏み込んでは行けないところへ、行ってしまいそうで。


「ごめんなさい……」


翠蓮は慌てて、自分の目元に触れる。


無理やり止めようとすると、余計に溢れる。


止まらない涙に、隠していた心情が溢れる。


「……っ、」


―ずっと、気にしていないつもりだった。


誰か、彼を孤独にしないでと願う傍ら、誰も愛さないでと、ずっと、あの時のままでいてと、そう黎祥に心の中で願う自分が許せなかった。


それを殺して、彼が幸せになる道を探そうと思った。


この後宮には、黎祥の愛が欲しい人が沢山いるんだからと。


でも、無理だった。


今更、愛してる、だなんて、言葉にできない。


言葉にしたら、全てが崩れる。


両手で顔を覆って、嗚咽する。


もう、黎祥は傍に居ないんだから。


もう、手は届かないところに、彼はいるから。


「涙を我慢する必要はありませんよ」


立ち上がった柳皇太后は、優しく翠蓮の背中を撫でる。


「泣きたい時は、泣きなさい」


「っっ……」


「黎祥を、愛してくれてありがとう」


優しい声音が、降り注ぐ。


まるで、渇いた土地に降り注ぐ慈雨のように。


その温もりは、死んだ母様を思い起こさせた。