「あ、そう?」
「うん」
翠蓮はしゃがみこんで、今にも泣きだしそうな妖々の頭を撫でる。
「…………龍翔と黎明」
「……」
小さく、翠蓮が呟いたその名前たち。
大人しく撫でられていた妖々の肩が、少し、跳ね上がった。
「妖々、知ってる?私さ、彩苑って人に頼まれているの。この二人に、『私を探して欲しい』って伝えてくれって」
今考えても、とても不思議な出来事だった。
誰もいないのに、声が聞こえるなんて。
でも、やっぱり、何度考えても無関係とは思えないんだよ。
すると、震える声で。
「黎明は―……もう、おらぬ」
と、妖々が言った。
「いない?」
「うん。だって、彩苑と共に死んだもの」
その一言は、重く、翠蓮の肩にのしかかる。
「死んだって……」
「だから、探しちゃダメだよ。翠蓮」
「探す……」
「見つけちゃったら、翠蓮が壊れちゃう」
自然と、手が震えた。
何も、言えなくなった。
「でも、どうしても困ったら……苦しくなったら、昔の龍神様がいる所においで」
優しく微笑む妖々。
「翠蓮が望めば、叶わぬことなんかないよ」
小さな手が、翠蓮の頬を包む。
聞きたいことが、あった。
心の底から、何かを叫びたかったはずだった。
でも、震える手が、それをさせてくれなかった。
震えた手が、
翠蓮に何か大切なことを訴えているような気がした。