『ハハッ、この女、どうしてやろうか?』
気が触れたように、黎祥は笑っていた。
血まみれの服で、
血まみれの手で、
血まみれの母抱いて、
血まみれの涙流して。
笑っていたんだ。
ずっと。
「それでもっ、貴方が望んでいるのは、そういうことじゃない!それは、"私たち”の願いだ!!」
斬り殺されてもいい。
だから、どうか、諦めないで欲しい。
楽になって欲しい。
本当の笑顔で、笑ってほしい。
彩蝶様が願われた姿で、生きていて欲しい。
―それが、嵐雪の本当の願い。
「……陛下、貴方は"自由”です」
「……」
「貴方の望んだ形ではなくても、ひとつくらい、ほんの少しくらい、何かを願ってもいいではありませんか!」
彼が『欲しい』と言えば、すぐに翠蓮殿は黎祥様の前に引きずり出されることだろう。
そして、彼女がどんなに嘆いても、誰も彼女を助けない。
―それを、黎祥様は恐れている。
「…………出て行ってくれ」
「陛下」
「頼むから、出ていけ」
……何も、言えなかった。
嵐雪は拝礼して、執務室から出ようとする。
すると、
「……お前達は、王が欲しかったのだろう?どうして、今更……それに、陛下と呼ばれている時点で、私は自由ではない」
と、小さな声で呟いた。
返せなかった。
何故なら、嵐雪たちは自分の国を守るため、自由になることを渇望してきた黎祥を、この皇宮に縛り付けているのだから。

