「どれだけ、後宮が危険だと……」
翠蓮殿と出会ってから、彼は色んな表情をするようになった。
翠蓮殿と幸せに暮らしていた頃だって、このまま、そっとしておきたいと願ったくらいに。
それでも、それを、運命は許さなかった。
『地方に対する税が増え続けている。で、皇帝さんは宴三昧?場所によってはかなり荒れて、流行病が蔓延していることも聞いた。異民族の侵入は多いし、このまま行けば、いずれ、不満が爆発するに決まっているのに』
成人前から、片鱗を見せていた彼。
彼は、『王』になるべき器だった。
「翠蓮には、手を出すなと言わなかったか……?」
言われた。
何度も、何度も。
それでも、それでも、と、願う理由が嵐雪にはある。
「何故、あいつを―……」
「あなたが、愛されたからです」
「……」
「あなたが、愛されたから。そして、また、翠蓮殿が、あなたを愛したから……」
「だがっ、私は"ここ”へ、戻ってきた!十分だろう!?どうして、翠蓮に―……」
彼は、怖がっている。
自分のせいで、また、大切な人を失うことを。
ずっと、あの時から……彩蝶様が死んだ日から、黎祥様は自分自身に憤っているのだ。
その怒りを収める場もわからず、ずっと、ずっと、苦しみもがいている。
―あのことは、どうしようもなかったのに。

