「……私は、この座に興味はない」


望まれるから、ついた王様。


国民を守るために、犠牲になった皇子。


『声が聞こえたよ。先帝を殺した時……"こうなることは決まっていた”、"逃げられるとでも思っていたのか”って』


―それは、恐らく、彼の運命の告示であった。


「……」


「……そんな顔をするな。私はもう、何もしてやれない」


黎祥はそう呟くと、静かに目を閉じた。


そして、しばらくの間の後。


「………………嵐雪、素直に答えろ」


冷たく、鋭い目が嵐雪を貫く。


「翠蓮を―……順翠玉として、栄貴妃の元に送り込んだのはお前だな?」


その問いに、今更、否定する意味はなかった。


否定したって、黎祥には隠し通せない。


「その通りでございます」


嵐雪の、勝手な自己満だ。


臣下としては、彼に王であってもらわなければならない。


けれど、一人の人間としては―順嵐雪としてならば、そういうものを全て放り捨ててでも、黎祥に幸せになって欲しいと願っている。