「フフッ、順大学士の言う通りだ」


第二皇子は病弱で、だからこそ、後宮に住んでいるのだと聞いた事があった。


それなのに、なんだ。


彼はとても元気で、快活そうな雰囲気で。


「言う通り、とは?」


「順翠玉は天才だって話」


ニコッと、言われた台詞。


「順大学士も、古傷に効いたって言ってたよ」


思い出すのは、少し前のこと。


昔怪我した傷が痛むとのことなので、傷んだ時にだけ服用するように、と、渡した薬。


そろそろ、量的に切れることだが……作り方を教えておいたから、問題はないと思う。


「私も、具合が悪い時に作ってもらおうかな」


「薬でしたら、太医の方の……」


その方が安全の、はずなのに……。


すると、流雲様は


「知らないのかい?太医は、親王を見ないんだ」


と、微笑んで言った。


でもそれは、勿論、知っている。


秋遠様のことは、黎祥が特別に許可しているのだと。


「それは、知ってますけど……」


「それに、太医はほとんどが男だからね。私としても、面白くない。後宮の女人達も、男と関わる生活は無縁だったものが多いだろうし……だから、君みたいな女性は歓迎されるんだ。これからも、後宮を頼むよ」


そう言って、彼は去っていく。


最後まで雰囲気は穏やかで、黎祥と暮らしていた頃を思い出してしまって。


(彼は、王位簒奪を狙ってはいない……)


いや、きっと、彼は黎祥の味方なのだろう。


味方であってほしい、と、翠蓮は願う。


敵だらけのこの魔窟の中で、どうか、実の兄弟だけは……否、実の兄弟が一番の敵になりうるのならば、一番の味方にもなれるはずだと……翠蓮は信じたいのだ。


「翠玉、私のことはいいから」


「え?」


「私だって、自分の身は自分で守ってみせる。あ、勿論、翠玉の忠告は守るわよ?だから、必ず、秋遠様を救って差し上げて」


「……顔見知り、なのですか?」


「何度かお会いして、お話したことがあるの。とても素敵な殿方よ。どうか、お願い」


秋遠様は、色んな人に愛されている。


きっと、素晴らしい方なのだろう。


でも、正直、あとは彼の体力問題で……翠蓮に出来ることは、ほんの少し。


「任せて下さいませ」


救ってみせる。


秋遠様を救えば、きっと、黎祥の心も救われるはずだから。


―そんなことを考えていた翠蓮を見下ろすように、宙舞う二つの影。