「っ、兄、上……」


苦しげに、呼ばれる。


褥に近づくと、薄らに目を開けた秋遠。


「無理して話すな。今は、休んでおけ」


「ご迷惑をっ、お掛けして……っ」


「そんなことを言うな。お前は、私にとって大切な弟だ。迷惑など、誰が思うものか。ただ……死ぬなよ」


黎祥の言葉を聞いて、弱々しく笑う秋遠。


元より、静かで大人しい秋遠は、荒々しく呼吸を繰り返す。


黎祥は、そっと頭に触れた。


高熱を始めとした、症状。


今回、秋遠を始めとして、人々を侵す毒の効用は、どこかで聞いたことがある気がした。


「―陛下。順薬師を連れて参りました。これから、治療に当たります」


蘭太医とともに現われた、一人の少女。


あどけなさを残したその容貌は美しいが、そばかすが目立つ。


「御機嫌麗しゅう、順翠玉と申します。恐れ多くも、第七公子様の治療に尽力させていただきます」


床に膝をつき、深深と拝礼。


「…っ、…許そう」


「……ありがとうございます」


蘭太医と同じく、澄んだ瞳のその少女。


(そうか―……)


自分が愛した、いや、今でも愛している女。


「高淑太妃様、今すぐ、これをお飲みください」


布で口を覆い、他の者もそれに倣う。


「そして、皆さん、これから―……」


急に現れて、彼女が順翠玉とするならば。


十中八九、絡んでいるのは嵐雪だ。


言った通り、直ぐに治療に取り掛かる翠玉―翠蓮。