ここまで話したら、同じことと思い、翠蓮は黎祥に包帯を巻きながら、


「さっきも言ったけど、私には行方不明の兄が二人いてね」


と、切り出す。


「一人は官吏に、もう一人は兵士になりたいとかで、お母さん達が死ぬ前に出て行っちゃったの。世が世だから、無理だって言ったんだけどね」


官吏登用試験は、難関だ。


貴族の子息達がいる中で、そこを抜けていかなければならない庶民には、かなりの学力がいる。


でも、先代皇帝は、暗君だった。


遊興に溺れ、妃に溺れ、政務は放り出し。


国が荒れようが、民が餓死しようが、何もせず。


それで、病が流行って……母と弟妹は死んだんだ。


有力な推薦がないと、試験に通ることは容易ではないことをわかっていながら、家族を捨てて、兄達は家を飛び出した。


「ほら……現皇帝陛下ってさ、皇太子時代をすっ飛ばしてるじゃない?」


現皇帝陛下は、冷酷だと有名である。


冷酷、無慈悲。


先代皇帝の時は、無実の人が沢山殺された。


でも、現皇帝陛下が即位してからは……日々、粛正の為に、罪多き、先帝の御代では裁かれなかった多くの人間が、刑に処されている。


伝統とか、歴史とか関係なしに、どこから現れたかしれない王は、腐敗したこの国を建て直していく。


「急な政治が祟って、体に悪影響がないといいのだけど」


現皇帝陛下は冷酷無慈悲で、民からは恐れられている存在だ。


でも、その分、期待をかけられている王だと思う。


翠蓮は彼の造る国を見ていたいと、日々、思ってた。