「―……黎祥」


名前を呼ばれて、顔を上げる。


「わらわの話を聞いていますか?」


絹団扇を持つ、白く細い手。


強く握れば折れてしまいそうな、弱い手。


目の前にいる柳皇太后や後宮の女達と、翠蓮は何ら変わりもしないのに。


「……申し訳ありません。義母上」


黎祥は柔らかく微笑し、謝罪を述べる。


「どうしたのですか。貴方らしくありませんね」


柳翠蘭(リュウ スイラン)―……現、皇太后位に収まる彼女は、先々帝―淑祥星(シュク ショウセイ)、黎祥の父―の皇后だった人だ。


先帝の母親であり、他にも二人の息子がいたとされるが、その二人の息子の行方はわかっておらず、彼女自身もそれを話そうとはしない。


凛とした威厳は長年、上に立ってきたもののそれであり、先々帝に女性として愛されずとも、先々帝が深い信頼を置いた相手であるということは、黎祥の耳にも入ってる。


寵妃であった、母が唯一、越えられなかった人である。


最も、母にはそれほどの野心はなかったのだが。