「この二人なの」


翠蓮は促されるまま、その室の褥に横たわる、侍女と思われる女人に近づく。


「わたくし付きの、毒味だったのよ」


栄貴妃の声が、暗い。


立ち込めるこの匂いは、体臭を誤魔化すために焚かれた香の匂いだろうか。


正直、翠蓮には馴染みがない。


「手の施しようがないと、太医には言われたわ」


太医……医者に見放された、患者。


優秀な彼らでも投げ出す毒が、彼女たちの全身に回ってしまっているのか。


「事情を、お聞かせ願えますか」


栄貴妃を振り返ると、栄貴妃は静かに頷く。


栄貴妃の耳飾りがシャン、と、揺れる。


「この二人……玉林(ギョクリン)と葉樹(ヨウジュ)は、わたくしの毒味役でね。簡単に言うと、わたくしの代わりに毒にやられてしまったのよ」


脈を測りながら、話を聞く。


脈は弱々しく、彼女たちの呼吸は今にも途絶えてしまいそうな程に浅い。


「どのようなお食事に盛られて?」


「食事っていうか……お菓子よ。饅頭」


「お菓子ですか……」


饅頭だったら、餡に練り込まれる可能性もある。


匂いの誤魔化し方だって、沢山ある。


気づかないのは無理はないが、饅頭を調べた時に何の毒かは分からなかったのか。


額に触れると、異常な程の汗をかいていて。


ひとつ、思い当たるもの。


「治しましょうね。少し、重く出てますが……治せないことはなさそうです」


こういう患者は、見たことがある。


―飢えた故に道端の毒草を食べてしまった人の対処で。