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 穂高《ほたか》雪乃《ゆきの》。
 わたしの名前。本当は好きじゃない。だって寒そうだし、何となく冷たく見えるから。


 そんなことない、可愛いって友達は言うけど。
 わたしは嫌いなの。頑固者だって怒ってくれるのは、その友達だけ。


 両親がつけてくれた名前に文句なんて、どうかしてる。でも、名前を書くたびに切なくなる。悲しくなる。会いたくなるから……。



「オイ!」

「痛っ!」



 桜散る校庭の片隅。校舎とテニスコートの間にある大きなとちの木。
 その下で寝転がり、真っ青な空を見ていたはずが、突然の衝撃に現実に戻されるわたし。



「さっさと起きろ」

「寝てはないです……」

「完璧に寝ていたら鉄拳だ」

「その分厚い辞書で叩くのも、どうかと思いますけど」



 眩しい太陽を塞ぐように見れば、見た目は熱血教師。手には国語辞典。
 白いTシャツに紺色ジャージ。全くイケてないファッションセンスに幻滅。