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「あ……」

「あ、雪乃か」



 ラッシュの時間に当たらなくてよかったなんて、ぼーっと電車に乗り込んだら見知った顔があってびっくりした。


 何となく気まずくて、見上げたものの何を話したらいいかわからなくなってしまった。


 背が高いのは相変わらず。でも随分と変わった。
 睨むような鋭い目は穏やかだし、髪は赤から黒になった。スーツ姿も似合ってる。



「この時間に会うの久しぶりね」



 ドアが閉まって電車が動き出す。わたしたちは席が空いているけれど、ドア近くに立ったままでいた。



「そっか。お前のとこ入学式だったんだな」



 不破《ふわ》秋《しゅう》。
 彼は同じ高校に通っていた一つ上の先輩で、元ヤンキー。あ、でも途中で学校を辞めちゃったんだよね。
 わたしのせいで。


 だから、彼を見ると罪悪感とあの日の思い出で黒く染まっていく感覚に陥る。
 でもその中に光るものがあるから、わたしは彼の隣にいたいって思っていた。


 秋くんはどうなのかわからないけれど。