係員の人の声がしてゴンドラの扉が開いた。
ゆっくり動く途中で手を取られて下りる。
もちろん先に降りた大場に。

本当に気が利く。
こういうところはすごくいい。
限定してしまった・・・こういうところもすごくいい。
スマート。もしや海外放浪の旅で身につけた?

手をつないだまま無言で列を離れる。
そのまま海を見れる位置に動いてぼんやりする。
風が相変わらず冷たくて、寒い。
後ろから抱きしめられて、重なった部分がとても暖かく感じられる。

「ねえ、大場。もともとそんなにスマートに気を遣ってくれるタイプだったの?」

「何が?」

「さっきも手を取って降りるのを手伝ってくれたし、あんまんも紙が付いてる方をくれたし、人が多いときはさり気なくかばってくれるよね。すごく気を遣ってくれてるのを感じる。」

「普通だろう?さっき俺が手を出さなかったら、係員が手を出してたよ。それこそまさかだろうし、向こうも困るよ。」

「じゃあ、そんな感じが身についてるんだ。」

「そんな感激されることならうれしいけど、なんだか不満そうな顔に見えるけど。」

「だって意識してないのなら、他の人にもやってるよね。大切にされてるって思われて誤解されて、勘違いされるよね。」

「大切にされてるって感じてるよって、そう伝えたい?」

なぜかニヤリとする。

「普通は他人とあんまん半分にして食べることはないし、ゴンドラに乗ることもない。多少は気を遣うけど、勘違いされるほどはないよ。むしろ今までどんな扱いを受けてきた?俺みたいに『スマート』な気遣いが出来る奴がいなかったって事でいいのか?」

そうかな?
あんまりそんな女性扱いをされなかった?
それも悲しい。

「スマートに食事に誘ってあげよう。行こう。」

手をつながれて歩き出した。

まあ、いいや。

『ありがとう。』

声には出さないけど、背中にむかって心の中で言った。

「寒いんだろう。手が冷たい。何食べる?」