薄暗くなる頃。
ようやく待ち焦がれた明かりがついた。
街並みも少しきれいになる。

あと少し。

予想通り、観覧車の列は既に長く、待ちながらとっぷりと暗くなるのを待つようだった。

「乗るころには夜景がきれいになりそう。」

「だな。大人しく待つか。」

「お茶買ってくる?」

「ああ、口の中が甘い。甘すぎる。」

「じゃあ、行ってくる。」

列を離れ自販機に向かう。

お茶を買い列に戻る。
1人で待つ背の高い大場。
ぼんやりするでもなく、こっちを向いていてすぐに目が合う。
小走りで列に戻ると、ペットボトルを取り上げて開けてくれた。

「喉乾いてた。結構歩いたよね。」

「ああ、降りる頃にはまたお腹空いてるんじゃないのか?」

1時間待ちのラインまであと少し。
まだまだかかる。
交代でトイレも済ませて、ドンドン目の前に迫ってくる大きな輪の一部。
本当に大きい。

すっかり明かりがきれいに映るようになった。

海沿いの風は冷たくて、いくらはしゃいでも寒いものは寒い。
腕を巻き付けてくっつく。

「風が冷たいから。」

必要でもないけど言い訳をして。

「降りたら温かい物でも食べよう。朝から腹の虫が騒ぎ出した割にはあんまり食べてないよな。」

「うん、ちょっとお腹空いた。」

「まさかここぞのてっぺんの12時に一斉に騒ぎ出すなんて色気のないことしないよな。」

何で堂々と『ここぞのてっぺん』と言えるのか。

「乗ってる間の数分は我慢します。」

「よろしく。」

視線を落とされた、明らかにお腹に。

そして乗り込んで。
最初は向かい合わせに。
その内に隣同士になって。
一緒に外を見る。

「今、9時過ぎ。」

「今、11時。」

てっぺんだと思ったのは大場だけで、気が付いて目を開けたらあっという間に過ぎていた。
視線を外して両隣のゴンドラを見る。
これがガラスが汚れてると言うか、傷がついてて、よくは見えない。角度も微妙で。
ちょっと安堵した。

でもカップルだったら絶対てっぺんの儀式はあると思う。
私たちだけじゃないと思う、そうだろう、きっと大場が言う通りだと。

「あと、三時間。」

ゆっくり抱きしめられて耳元で言う。
さすがに『五時』を過ぎたら向かいに移動したい。

数分の密室はすぐに終わった。
物足りないけど、お腹が空いた。
思ったより大人しくしててくれたお腹の生き物。
ムードは満点だった。

そっと向かいに座り手をつないだまま低くなった視点からビルを見上げる。