じっと見上げる。

「もう、いっそ言えば楽になるのに。考えなくていい事で黙らなくてもいいよ。すぐに聞いてくれれば良かったのに。」

「誰?」

そう言われてあっさり聞いてしまった。

「一緒に営業に同行した先輩。まあ、年下だけど。日向さん。企画担当で同行頼んだのに、最後の最後に失言して相手を怒らせてしまって。後は俺が一人でお詫びに行って謝ってすんなり収まったっていう話で、大したことにもならなかったんだけど。」

「それで食事のお礼?」

「まあ、そう言われた・・・。けど、断って彼女がいることもさり気なく言ったし。ああ言うと二度目の誘いはないから。」

「確信的に?」

「ない。」

「じゃあ、今までも誘われてたんだ・・・・、そういうことでしょう?」

「まあ、さり気なく、意味ありげか無さげか、はっきりしないのも含めると何人か。でも行ってないし、同じような言い訳で切り抜けたから、どのパターンも二度目の誘いはない。」

「大場、・・・・もてるの?」

「そこ、疑問?」

「・・・・考えてなかった。だって・・・・・噂も聞いたことがないし。」

「だから断ってたから。ずっと彼女いるふり。むしろ、それが譲に伝わってなくて良かった・・・・・。」

「うん、それも伝わってない。」

小粒ネタ。

「機嫌直った?他には?」

「取引先の人とか、断れない人もいるでしょう?」

「いないよ、割と早い段階で彼女がいることは言うタイプ。だから対象にはなってないと思う。」

やっぱりじっと見上げる。
・・・・・ということは、ずっと彼女いるふりしてたの?
図々しくない?
普通聞かれるでしょう?
どんな人?会社の人?どこに行った?どこ行くの?
適当に答えてたの?


「何?何聞きたいか、わかんないけど?」

「嘘でペラペラと言えるの?架空の人との架空のデート。」

「・・・・ちゃんとイメージしてたよ、一緒に映画に行ったことになってるし、何度も食事したことになってるし、兄貴たちのデートを横取りしたようにデートしたことになってるって。」

ペシペシとほっぺたを叩かれて、視線をそらされた。

「・・・・私?」

「当たり前だろう。いいじゃん、これから行けばいいし、な?嘘を真実で塗り直すみたいな感じ。」

なかなか視線が戻ってこない、珍しい。
そんなに恥ずかしい事だった?
ヘラヘラとやってたんでしょう?

やっとこっちを向いたら普通の顔をしてた。
ニッコリ笑ったら安心した顔をされた。

「まったく。せっかく外で食事したかったのに。」

「すみませんでした。」

「まあ、いいや。明日でもいいしな。」

そうなんだ、やっと来た週末。
待ちに待った週末~。