「でも、分からないよな。すごくうらやましがられたナイスカップルだったのに。ちょっとショック。」

何で?

「なあ、声に出せば?」

「何を・・・・。」

いきなり何?

「思ってる事。結構見つめれば答えると思ってさぼってない?」

そんなつもりはない・・・けど。

「ほら、今だって否定しただろう、声には出てないけど。顔を見ればそこそこ分かるけど、結構喋らずに済ませようとするよな。」

初めて言われた。
そう?
そういえば『何を思ってるのか分からない。』そう言われて振られたことはある。
・・・・・あれ?そう言うこと?

「まあ、いいけど。わかる範囲で返事してるけど、時々寂しくなる。睨まれてばっかりで。」

「それは嫌なことばっかり聞くからでしょう。」

「そこはハッキリと言うんだ。嫌なことって・・・・・。別にそんなつもりはないけど。」

あるよ、大ありだよ。
それ以外何のつもりがあるというのか、逆に聞きたいです。

視線を外してお酒を見つめながら思う。

頼んだ料理が来た。
美味しそう。
なんだか食べたい気がするんですが。

じっと見てると笑いながらフォークを渡された。

「だから、食べたいって言えばいいのに。」

「ありがとう。」

フォークを受け取る。

グリル野菜にチーズがとけていて胡椒がざっくりとかかっている。
フォークを手に見つめる。

「先にとってもいいよ。」

顔をあげた。
いいの?マジ。優しい?

「声に出てないけど、喜んでるよな?」

笑われた。

「あ、ありがとう。優しいんだね。」

ガシッとフォーク刺す。
野菜は複数あるので三分の一くらいとってもいいだろう。
早くしないとチーズが冷えて固まる。

自分の皿に乗せたら、すかさず食べる。

美味しい。
お腹いっぱいって言ったのに。
デザートも食べたいのに。

「あちっ。」

溶けたチーズがべろりと唇に落ちた。
熱い、熱い。
チーズを手で口に運ぶとすぐにグラスを口に当てられた。

「火傷するよ。それしばらく当てとけば。」

氷の入った大場のグラスを借りる。
冷たい・・・・・。

しばらくしてグラスを置く。
唇の感覚がないくらいに冷えた。

自分じゃどうなってるか分からない。触っても感覚ないし。

グッと近くに顔が来た。
ビックリするより先に顎を掴まれて赤面する。

何?

そう思う間もないほど、すぐに、顔は離れて行った。

「大丈夫だと思うけど。気をつけろよ。唇に火傷して水泡作ったらアホっぽいぞ、もしくはどんだけがっついたんだって思われるかだな。」

心配してくれたらしい。
意外に優しいのか?
じっと顔を見ると困った顔で言われた。

「何だよ。」

「べ、別に。アホとかがっつくとか、容赦ないなあって思っただけ。」

ふって鼻で笑われた。

「まあ、落ち着いて食べろってことだよ。」

そう言ってお酒のグラスを引き取られた。

「ありがとう。」

グラスを指さしてお礼を言った。
すごく変な顔をされた。
何よ。お礼言っただけなのに。

「おかわりは?」

自分のグラスはほとんど空っぽ。
誘われるままに次のカクテルを頼んだ。

「ねえ、ここは誰と来たの?」

適当な話と思って聞いてみた。
返事がないので顔をあげるとニヤリと笑われた。

・・・・別に深い意味はないのに。

「気になる?」

「ならない。普通の当たり障りない会話のつもり。」

そうハッキリ言うと真顔で見られた。

「別に、・・・・初めてだよ。友達の話に聞いてて覚えてただけ。」

なら、最初からそう言えばいいのに、そう思った。

「あんまり飲みに行かないのか?」

「・・・行かない。」

「じゃあ、飲みたくなったら誘ってくれよ。早く誘ってくれれば残業しないように頑張るから。」

何でよ。意味不明です。
飲むって言ってもコーヒーで充分。お酒はいらないし。
見返す。

「返事は?」

「誘いません。」

以上。

ため息をつくのが分かった。

何で普通の会話が出来ないんだろう。
おかしいかも、よく考えたらおかしい。
なんでこうもいつも喧嘩腰なんだろう。

私は大人しい事務員のはず。
こんなに怒りっぽくもないし、口も悪くないはずなのに。


やはり、それは日ごろの態度の問題だけど。
明らかに嫌味だらけで揶揄ってくるから。

何で今日誘われた?

ああ、タイミングが合ったんだ。
約束をキャンセルされたタイミング。
そういうことでしょう。

次のお皿の野菜とお肉も少し貰い。

しばらくしてメニュー表を開いて渡された。

「デザート頼みたいんだろう?」

お腹はいっぱいだ。でも別腹だし。

さっきもちょっと悩んだけど、贅沢にまた悩む。
二択には絞れるけど。
捨てがたいチーズケーキとブラウニーのアイス添え。

「何で迷ってる?」

指をさす。

「いいよ、二つ頼んで、半分食べてやるから。」

「今日はすごくいい人だね。」

「何で今日限定なんだよ。いつでもいい人だ。譲ちゃんが知らないだけです。」

また勝手に馴れ馴れしく呼ぶ。
眉間にしわが寄る。
きつく見ると眉間を刺された。
指で思いっきり。

「何だよ、すぐそうやって睨むんだから。何だよ。」

「・・・・そんなに馴れ馴れしく、下の名前で呼ばないで。」


思ったよりきつい言い方になったかもしれない。
ちょっと驚いた顔をされた。
そんな顔を見たくなくて下を向いた。


「分かった。」

そう言われた。

よし。そう思いたいのに・・・・。
すごくつまらなそうな響きのある返事で、言わせた自分の反応が過剰だったみたいに思える。


デザートが来て二人で分けて食べる。

「美味しいか?満足?」

「もちろん。美味しいし、満足。」

お酒も三杯飲んで、明らかに食べ過ぎて。
お腹が重い。

お会計はまたまた奢ってもらい、狭いエレベータに乗ってお店を後にした。
外に出たらもう真っ暗で。

「ごちそうさま。いいの?」

「ああ、もっと高いものを今度奢りかえしてもらおう。」

そんなのないから。今日はたまたまじゃない・・・。

返事はしないで先に歩き出した。
しばらくしたら足音が付いてきた。

駅を目指す。
大分離れてしまった。

まだまだ人が多くて、すれ違うのは駅に向かわず遊び足りないように次を目指す人々。
逆行するように駅に向かうのは歩きにくい。

後ろから追いつかれるようにして横に並んで腕を取られた。
そのまま体にかばわれるように後ろについた。


人混みを歩いて見上げる背中は大きくて、人波が自然と割れて、その道を歩いてるようで楽。

時々見せる優しさは発見だった。
そういえば年上だった。
なるほど。



あ、・・・・・そうか。
後輩だけど同じ年・・・・・・。

そう言うことだと、そうなるのか。
引っ張られるまま歩きながら、ひとり考え事をしていた。

ちょっとだけ記憶に残っていた随分前の映像。