「ああ、もっと早起きするはずだったのになあ。」

「何?早く行くつもりだったの?」

「いいえ、何でもありません。」

「何?機嫌悪い?」

「はあ?」

呆れた顔で見下ろされた。
外に出た途端不機嫌になったみたいに。
こっちが『はあ?』ですけど。

「めちゃくちゃ機嫌いいよ、早起きしたら昨日みたいな楽しい朝の時間の使い方が出来たのになあって。後悔と反省をして、次回への課題にしたところ。」

「はあ?」

やっぱりそのセリフだった。

「朝から馬鹿。」

「昨日は2人とも朝から馬鹿だった?」

・・・・それは知らない。

つないだ手が熱くなった気がした。

電車の中でもくっついて、駅に着いて降りた途端に手も放して距離をとった。

「なあ、別によくない?」

「・・・まだ・・・よくない。」

「はいはい。」

そう言うと分かってくれてちょっと前を歩く大場。
背中を見ながら会社に行く朝。



『今日は部屋に帰る。』

そう言ったのは自分だけど。
なんだか急に夜が楽しみじゃなくなった。
たったの二日、一緒に過ごしただけなのに。
楽しい日がちょっと続くと、それまでの日々が物足りなくなる。

「朝から悩ましい顔をしないでくださいね。」

みゆきが横に来た。

「おはよう。」

「おはよう。何?寂しい言って顔に書いてるけど。」

「別に・・・。」

鏡で顔を見た。
そんなこと書いてないし。
当たり前だ、見るまでもない事なのに。


さり気なく首元も見られた気がする。
ついてないから。

寂しいなんて・・・・仕事は山の様に積まれていきそうになるから、そんな事を思ってる暇がない・・・・良かった。
それでもぼんやりせずにやれば終わる量。

今日も両手をあげて万歳して終了。

大人しく着替えをして帰る。
携帯を見ると大場からメッセージが入っていた。

残業があるからやっぱり遅いらしい。

『自分の部屋に帰って良し。』

偉そうなメッセージがあった。

『許可はいりません。のんびりします。』

そう送り返した。

それだけではさすがに可愛げがないのでお疲れ様のスタンプも送った。
可愛い奴。
こっちが本当の気持ちです・・・・・なんて言えないから。

なかなか関係が揶揄う、すねる、ひねくれる、つっかかる・・・という関係から抜け出せない。
昔はもっと甘えてたと思う・・・・・・かな?普通か。
でも時々甘えていいぞオーラを勝手に感じてる。
二つ上で器用だと分かってるから、自分がすごく頼りたいと思う時がある。
つい甘えたいと思う時が。

それでもなかなか素直には言えない。

難しいものだ。


今度はきちんとみゆきに相談しよう。
真面目な話ですが、経験豊富なみゆきさんはどうしているんでしょうかと。

でも、なんだか笑われておしまいになりそう。
もしくは、簡単に答えを出してくれるか。

久しぶりの自分の部屋。
やっぱりくつろげる。

少し残っていた野菜とベーコンを炒めてシンプルに塩胡椒を振って食べる。
ヨーグルトも食べておこう。
あとは・・・・。牛乳はよし。

テレビをつけて、ぐうたらと部屋着で過ごす。
サイズが合うパジャマ、捲られない裾、一人のベッド。

やっぱり寂しくて。

携帯を見ても連絡はない。

洗濯掃除をしたらベッドにゴロンとなった。