「譲。」

聞き慣れたような声で呼ばれる。
気安く呼ぶなって言ってから、しばらく呼ばれてなかった。
でも、またすっかり慣れた呼び名と、その声。

目が完全に覚める前に自分を包んでいる腕の持ち主が分かった。
すごく幸せな瞬間だった。

目を開けたら・・・・。
何もなくて、一人自分の部屋だったらどうしようと、そう思った。

最後の最後まで目を開けるのをためらう。

今、目は覚めてるけど、もしこれがまだ夢の中だったらどうかこのままで。

「譲。」
もう一度呼ばれて、髪を触られて、おでこに温かい感触もあった。

「大場・・・・・。」

「譲、やっと起きた?」

夢じゃないって分かったから目を開ける。
本当に夢じゃなかった。
そこにいた。思ったより近くに、目の前に。

少し距離をとりたくて体を離す。

「何だよ、さっきは大切そうに名前を呼んでくれたのに。いきなり離れる?」

離れた分近寄られた、それ以上に近くに。
目の前に、やっぱり大好きな顔がある。
朝から・・・・朝!!

会社・・・・。

いきなり体を起こそうとした私を捕まえて寝かせる。

「まだ大丈夫だから。目覚ましが鳴るから。」

そっと部屋の明るさを見て考える。
6時くらい?
あと少しは大丈夫そう。

「俺のいつもの時間より、30分早く起きればいい?」

うなずく。

いつの間にか目覚ましをかけたらしい。
さっきつけたはずの小さい明かりも消えてた。
それに腰にさりげなく手を当てると下着を着てるのが分かる。

もうすっかりシャワー浴びたの?

私は昨日の姿のまま。
パジャマを借りることもなかった。

腰に手を当てて、考えながら見上げてた・・・・らしい。

「何?」
そう聞かれた。

「シャワー浴びたの?」
「まさか・・・・・。無駄なことはしない。」

無駄って。浴びた方がいいと思う。
私も借りたい。
ちょっとくらいギリギリだとしても。

「譲、あと一時間はあるよ。」

「うん。」

しがみついた。このまま二度寝したらまた幸せな目覚めが出来そう。
今度は夢だなんて思わないと思う。

自分でもしっかり巻きついてる。